「お久しぶりでございます! お足元の悪い中、大変でしたでしょう!? ささ、どうぞ中へお入りください」
門の前で聞いた声と同じ、だが第一声とは打って変わった高い声はどこか枯れ木を踏みしめた時の音を連想させた。
「俺達、ものすごーくお腹が空いてるんだよね。特に、こちらの姫が」
「ああ、それは大変だ! すぐに用意させますから」
まるで淑女をエスコートする紳士さながらの身のこなしで半ば強引に屋敷の中に誘導されたのはジストとエナで。
「……もしかしなくてもオレはラフと同じ扱いか?」
エナ達の三歩後ろを歩くゼルが少し拗ねたように言った。
「まさか!」
ジストは振り返り、大仰に驚いてみせたが、残念ながらその目は楽しそうに輝いている。
その楽しそうな視線を受けたエナは、肩に乗るラファエルに笑いかけた。
「ホントやめて欲しーよね。ラフ、可哀相」
急に名を呼ばれたラファエルは真っ白でふわふわの毛が覆う尻尾を振りながらエナの顎に顔をすりよせた。
あんたは可愛いわね、とラファエルを撫でるエナにゼルが鋭い視線を投げてくる。
「そりゃどーゆー意味だっ?!」
ジストが喉を鳴らして笑う。
「ゼルくんたら、そんなこともわかんないんだ? 馬鹿過ぎて」
どうやらジストは案外ゼルのことを気に入っているらしい。
ゼルをからかうような会話は、実は結構頻繁に行われていたりする。
「わかるわいっ!」
三人と一匹の闖入者で静かな屋敷が急に騒がしくなったのは言うまでもない。

