「もういい加減諦めろよ」
「うっさいなぁ」
両開きの鉄門の前。
遠目で見ていた通り、それは立派な屋敷だった。
鉄門から屋敷の玄関までの距離は十メートル以上で、屋敷自体も、一体何部屋あるのだと窓を数えたくなる程だ。
白亜の壁に赤い屋根。
派手さは無いが、その分庭の手入れには随分お金をかけているようだった。
鉄門の端、敷地を囲む二メートル半はあろうかという石壁の脇にある呼び鈴をジストの形の良い指が押す。
ブー、と意外に低い音が家主を呼び出した。
しばらく待つが、応答する気配はまるで無い。
「……やっぱコレじゃ無理か……」
ジストが一人ごちて、短く三回、長く一回、再び短く二回とブザーを押した。
「?」
二人は不思議そうな顔でジストを見る。
すると、呼び鈴についたスピーカーから何かの音が聞こえた。
おそらく、受話器を上げた音だろう。
「………ジストくんか……?」
ややあって聞こえて来た皺嗄れた男の声はどこかオドオドとしていた。
「開けてくれる?」
ジストは質問には答えず言を紡ぐと、途端に受話器の置かれる音がした。
そして、ものの十秒もしない間に鉄門が機会音のようなものを伴って敷地内方向に開き始めた。
その鉄門の先で重たそうな扉が少し隙間を作り、中からはまさしく鳥の巣頭と称されるような、乱雑且、少し寂しくなった髪の毛の主が顔を出した。
エナ達がその男の前まで歩いていくと、男は顔を輝かせて扉を大きく開き、ジストに握手を求めた。
見知った奴、とジストは言っていたが、そこには見事な上下関係が築かれているようだ。
これなら交渉もなんとかなるかもしれない、とエナは心中でにやりと笑った。

