その午後、私たちは同じ空間にいるのに、互いに届かない想いを抱えたまま過ごした。
笑顔の裏に潜む、あのもどかしい距離感。
それでも、目を逸らせないのは――私も、彼も、まだどこかでお互いを大切に思っているからだろう。
数日後、街の小さな公園で偶然彼と再会した。
秋の柔らかな日差しが、落ち葉の上に斑模様を作っている。

「また会えたね」
彼の声には、前より少しだけ安心感があった。

「うん…偶然だね」
私は微笑みながらも、少し恥ずかしくて目を逸らす。
でも、今度は逃げずに、彼の目を見る。

「正直に言うよ」
彼はゆっくりと歩み寄り、少し照れたように視線を逸らす。
「俺…やっぱり、昔からこはるのこと、特別に思ってる」

胸がぎゅっと熱くなる。
私も、ずっと隠してきた気持ちを吐き出したくなる。
「私も…ずっと、わたるのこと、特別に思ってた」

二人の距離が、やっと少しだけ縮まった。
でも、まだ完全に心が重なったわけではない。
互いのタイミング、すれ違いの記憶、日々の生活――
それでも、手を伸ばせば届きそうな距離にいることが、温かくて切ない。

「また…少しずつでいい。距離を埋めていこう」
彼の言葉に、私はうなずく。
「うん、少しずつ…」

二人の影が長く伸びる秋の公園で、まだ少し遠いけれど確かに繋がった未来を感じた。
そして、すれ違いの日々も、きっと悪くなかったと思えるような気がした。