それでも、日常は続いていく。


仕事、同僚との会話、帰り道の夕焼け。
少しずつ、自分の生活の中に「静かな余白」が戻ってきた。

ある日、ふと立ち寄ったカフェで、隣の席の男性が話しかけてきた。
「それ、面白いですよね。その本。」

顔を上げると、少し年下くらいの、柔らかい目をした人だった。
彼の言葉が自然で、押しつけがましくなくて、
あの時みたいな警戒心が不思議と起きなかった。

何かを期待したわけじゃない。
でも、心の奥に、ほんの小さな灯りがともった。

その日から、私は少しずつ変わり始めた。

メイクを研究してみたり、
朝早く起きてゆっくりコーヒーを淹れたり。
誰かのため、じゃなく、
“自分を大切にするため”の時間が増えていった。

「可愛くなりたい」という気持ちは、
もう恋だけのためじゃなかった。

あの痛みを経て、
私は自分のことをようやく“愛したい”と思えるようになった。