マッチングアプリを始めたのは、
“誰かとちゃんと向き合いたい”と思ったからだった。

会社と家を往復する毎日。
友達の結婚報告が増えていく中で、
「私もいつか」と口にするたび、
心のどこかで焦りが滲んでいた。

そんな時に出会ったのが、彼。
返信はまめで、会話も自然。
仕事の話も、映画の話も、なぜか呼吸が合うような心地よさがあった。

「明日も話したいな」
そう思える相手なんて、久しぶりだった。

だけど、その“明日”は来なかった。

ある日、既読がつかなくなり、
数日後にはプロフィールが消えていた。

スマホの画面を見つめたまま、何も感じないふりをした。
でも、心の奥で何かが静かに崩れていくのがわかった。

「やっぱり、私には向いてないのかも」
そんな言葉が、夜の部屋の中でやけに現実的に響いた。

それからは、誰かに期待するのが怖くなった。
アプリを開いても、画面の向こうの人たちが
全部、遠い世界の人のように思えた。

“傷つくくらいなら、何も始めないほうがいい”

そう思いながら、アプリを削除した。