その日の午後、二人でプロジェクトの資料を整理していたとき、手がほんの少し触れた。
「おっと、すまん…」
「…いえ、大丈夫です」

その瞬間、心臓が高鳴った。年上で大人の彼に、こんなに胸が揺れるとは思わなかった。

「君って、真面目すぎるんだな」
「…先輩に言われると、なんだかくすぐったいです」
「ふふ、仕事しかしてこなかったから、恋愛とか苦手だけど…君のそういうところを見ると、不思議な気持ちになる」

私は言葉を返せなかった。ただ、胸の奥がじんわり熱くなる。

夜、オフィスを出るとき、佐伯課長はそっと声をかけた。
「無理はするなよ。君はまだまだ伸びしろがある」

「はい…ありがとうございます」

子ども扱いされるのは少し悔しいけれど、心の奥では守られたい気持ちが膨らむ。
仕事人間の彼に、私の小さな気持ちは届くのだろうか。

窓の外の夕焼けを見ながら、私は小さく息をついた。
年の差も立場の違いも、全部乗り越えられそうな気がした。
少しずつ、近づける未来を感じながら、オフィスの片隅で今日も仕事を続ける。