夕方のオフィスは、静かで少しだけ冷たい空気が漂っていた。
私は資料を確認しながら、キーボードの上で手を止める。

「また集中しすぎだな」

背後から声がして、私はぎょっと振り向いた。上司の佐伯課長だ。私よりずっと年上で、落ち着いた顔つきに威厳がある。仕事人間で、恋愛はほとんど経験していないらしい。

「…課長、いきなり何ですか」
「お前、子どもみたいに肩に力が入りすぎてる」

私は顔を赤らめ、思わず笑ってしまう。
「子ども扱いしないでください」
「無理だな。俺から見ると、まだまだ君は若くて可愛い子どもだ」

その言葉に、心が小さく跳ねる。
「…可愛い…って」
「いや、からかってるわけじゃない。集中しすぎる君を見ると、少し肩の力を抜かせたくなるんだ」

彼の視線は優しいけれど、どこか遠くを見ているようで、胸がざわつく。