カフェの窓際で、私はひとりの時間を楽しんでいた。
午後の柔らかな日差しがテーブルの上のカップに落ちて、コーヒーの蒸気を金色に染めている。
ふと視線を上げると、入口の方から見覚えのある顔が覗いた。

「あ……わたる?」

久しぶりに呼ぶ名前に、心臓が少し早くなる。
彼は少し驚いたように私を見つめ、でもすぐに笑顔を作った。
「久しぶりだね、元気そうだね」
声は落ち着いているけれど、その瞳には何か言えないものが隠れている気がした。

私は微笑みを返したけれど、胸の奥のざわつきを抑えられない。
「ええ、元気よ。あなたは?」

「まあ、ぼちぼち…」
言葉少なに、彼は私の隣の席に座ることなく、少し離れたテーブルに腰を下ろした。
幼なじみの距離なのに、どこか遠い。
昔のように気軽に話せる関係では、もうないのだと痛感した。

私たちはそのまま、短い会話を交わす。
窓の外の街路樹が揺れる音と、カフェの静かなジャズが、すれ違う気持ちを包む。
「……そういえば、最近どうしてたの?」
「色々、ね。あなたは?」
言葉は交わすのに、心の距離はまだ遠く、触れられない。