定番は光とか、聖なるでしょ、ふつー。癒しの手とか使えたらサイコーなのに。
なんか暗殺者っぽいのしかないじゃん。
「毒……恐怖、孤独……。もしかして、このスキルって前世から引き継いだ系なのかな。ないよりはあった方がよさげなスキルではあるけど」
魔法……は聞いたことなかったっけ。この世界にはないっぽいな。
仕方ない。スキルもないよりはマシだと思おう。
でも毒耐性って。
昔、何か食べたかなぁ。
口元を押さえながら下を向いていると、木々が風に揺れた、
人の気配。
私は急いで視線を見上げる。
そこには心配そうに私をのぞき込む男性の姿があった。
「大丈夫か、オルコルト令嬢」
背が高く、細身のその男性は、やややる気のなさそうに薄緑の頭をかきながら声をかけてきた。
神経質とは真逆のようなその存在は、服も髪型もよれており、イケオジというには程遠かった。
「えっと先生?」
「なんでそこが疑問符なんだよ。おまえの担任だろが」
「あー、そうでした、そうでした」
記憶を一気に取り戻してしまったことで、頭の中が少し混乱してしまったみたい。
でも彼は確かに私の担任だ。
こんな成りでも、一応教授らしい。
「アザーレ教授35歳、独身。彼女ナシ。よし、ちゃんと覚えてる」
「おい。なんでそこを全部読み上げる。っつーか、何見てそんなスラスラ人のことを言ってるんだよ」
「え、あ、記憶力いいんです」
これは本当。
昔から変なとこだけ記憶力いいのよね。
「そんなことより、何かありましたか?」
「それはこっちのセリフだ。おまえが他のヤツに嫌がらせを受けていると、生徒から助けを求められて大急ぎで来たんだが」
おー。
わざわざ教授を誰か呼びに行ってくれたんだ。
すごいすごい。
ちゃんとした人もいるんじゃない、この世界。
お友達になりたいな。
「怪我はないか?」
「へ? 怪我っていうか、そもそも、嫌がらせなんて受けていませんよ?」
「は? なんだ、それは……。見たって奴らが数人いたんだが」
「ん-。いや、たぶん見解《けんかい》の相違《そうい》みたいな?」
「おまえ、難しい言葉使ってごまかそうとしてないか?」
「いえ? 事実を言ったまでですよ」
だってアレが嫌がらせだなんて。
まぁ、貴族の子にとったらあれぐらいでも嫌がらせにあるのかもしれないけど。
実際の被害は手が濡れただけ。
しかも今は真夏よ。
たとえ頭から水をかぶったとしても、私なら嫌がらせって思えないかもなぁ。
さっきも思ったけど、あれが効果を発揮するのは真冬くらいよね。
これじゃあ、風邪もひけやしない。
一人納得する私に、アザーレ教授はなぜか深いため息をついていた。
「何にもないならいいが。だが一人で抱え込んだり、無理はするなよ。何かあったらすぐ相談しろ」
「んー、はい、了解です!」
私が元気に右手を上げれば、教授は心底呆れたような瞳をしていたが、私はあえて気にしないことにした。



