「あら、そんなとこにいらしたんですの、ファーナ嬢。みすぼらしくって、ただの布切れかと思ってしまいましたわ。ごめんあそばせ?」

 日の光を浴び、輝くようなハニーブロンドの髪にサファイアの瞳を持つその令嬢は、私にわざとぶつかった後、あざ笑いながら言った。

 彼女がぶつかったせいでよろけた私は、学園内の中央に配置された噴水の縁に乗り上げるようにへたり込む。
 手にはひんやりとした水の感触が伝わってきた。

 布切れって。
 彼女も私も、着ているものはこの学園の制服だ。
 紺色の生地のブレザーで、胸元には学園の紋章が金色の糸で刺繍されている。

 だけど違いは確かにある。
 私みたいなお金のない家の者は、この制服をそのまま着ているのだが、彼女たちのようなお金持ちはこの制服に追加で刺繍やボタンを宝石に変えるなどしているのだ。

 元は一緒のものだというのに、煌《きら》びやかさが全然違うのよね。

「だいたい、道の真ん中をボサっと歩いている方が悪いのですよ。フィリア様が謝ることなどございませんわ」
「ええ、ホントそうですわ。たかが子爵令嬢風情がフィリア様に道も譲らす、真ん中を通ろうとするなんて。非常識もいいところです」
「むしろフィリア様がお怪我されたらどうするのです」
「そうそう。こんな汚いのに触るだなんて。病気でもうつされたら大変ですわ」

 フィリアと呼ばれた先ほどのハニーブロンドの令嬢の、やや後ろを歩いていた二人の令嬢が、まるで彼女を庇うようにその前にスッと立つ。
 
 フィリアという名前は、この国では有名だ。
 この国唯一の公爵令嬢。
 そしておそらくこの二人は、彼女の取り巻きなのだろう。