派遣としてではなく、正式に「マナベ、ウエディングコンサルタント」の社員として働きだした。
 数人のスタッフと小さなオフィス。それでもドアを開けると、季節の花の香りと、笑い声がちゃんと満ちている。ここにしかない、あたたかい空気がある。当初はトラブル対応専門だったけれど、今では「最初からここにお願いしたい」という依頼の方が多くなった。
 その理由はたぶん、どの式にも“顔”があるから。私たちがつくるのは、誰かが誰かを本当に大事に思っているっていう、その証みたいな時間だ。
 有名な演出や最新のトレンドじゃなくて、例えば、昔住んでいた家の花を会場に飾るとか。
 ふたりが初めて会った駅の音を、BGⅯに混ぜ込むとか、そういう一つひとつに、私達は時間をかけた。
 仕事は確かに、効率的じゃない。だけど、ここでは、誰も、作業なんて言葉を使わなかった
 関わる人達‥‥お客さんは、私たちの式を“作品”だって言ってくれる。
 式が終わったあと、参列者の何人かがわざわざ連絡をくれた。
 ここに依頼して本当に良かったと。
 その声を聞いて顔がにやけてしまっている私を見て、真鍋さんも笑い返した。

 以前とは違って、私は今、自分の仕事が‥‥ブライダルに関わる事が好きだと、胸を張って言える。


 仕事は順調そのもので、依頼の数もどんどん増えていった。
 コンサルだけではなく、本格的に結婚式事業にも参入する事になった。
 会社で独自の式場を持つ事になり、それにともなって今の事務所から、都心のビルに引っ越した。
 引っ越し作業と同時に現状の仕事もこなさなければならなくなり、目が回る程の忙しさだったけど、全く苦にならなかった。
 幾つかの式を取り行い。たくさんの幸せな顔を見て、私も幸せな気分になった。