「ああ、実はな‥‥紗和‥‥お前を迎えに来たんだ」
 森岡は少し興奮気味に声を震わせている。
 「どういう事ですか?」
 「その通りの意味さ。お前をわが社の正プランナーとして入れてやろうと思ってな。どうだ、嬉しいだろう?」
 真理子が間に割って入る。
 「私は反対したんだけど、拓馬がどうしても白石がいないと駄目だって言うから。全く!‥‥自分の無能をカバーしてもらいたいんだろうけど」
 「そんな事をここで言わなくてもいいだろ!」
 「何よ! あなたが社を継いでから経営はどんどん苦しくなってきてるじゃない! 挙句に白石紗和を会社に戻す事が起死回生の案なの? 正プランナーってそんな安いものじゃないでしょ?」
 二人は言い合いを始めた。しばらく黙ってみていたけど、さすがに見るに堪えかねてきた。
 「お断りします」
 私ははっきりとそう答えた。
 「あ?」
 森岡は信じられないという顔をしている。
 この人はどうして人が必ず思い通りに動くと思い込んでいるのだろうか。
 そんな人を好きだったなんて‥‥今から思えば、大馬鹿だった。
 「何を言ってるんだ? ブライダルフェリーチェのプランナーだぞ!」
 「‥‥‥‥」
 私は森岡を見つめる。その表情には何の感情も浮かべていない。
 「そ、そうだ! 正プランナーで不満ならマネージャーならどうだ? こんな歴史の無い小さな会社で事務員しているよりは、老舗のうちに来た方が君も活躍できる! そうだろう⁈」
 「‥‥‥‥」
 この会社の悪口を言い始めた辺りで、我慢の限界を超えた。
 声を出そうと息を吸い込んだ、その時。
 =聞くに堪えないな=
 真鍋さんが室内に入ってきた。
 「マナベウエディングコンルタントの代表の真鍋春斗です」
 彼は丁寧に名刺を渡したけど、一瞥した森岡はテーブルにぞんざいに置いただけで、自分の名刺を渡さなかった。
 「そこの白石は、元はうちで働いていてね。迎えに来たんだ」