飛びこんできた大口のお客さんに対応する方法を模索していた会議は、それから三時間程続いた。
 契約を結べば、これから先、安定した仕事になる。その計画を立てる為の大事な会議だ。
 「すみません、ブライダルフェリーチェの社長さんが、早く面会させろと、何度も言ってきてますが‥‥どうしましょうか?」
 「やれやれだな」
 彼はため息をついて笑った。立ち上がろうとしたけど、
 「ううん、そっちは私が対応するから」
 私は手で遮る。
 「僕が行かなくて大丈夫?」
 少し心配そうな顔で私を見てる。
 「これは私が自分で決着をつけなきゃいけない事だから」
 「そうか。何かあればすぐ行くから」
 「ありがとう」
 私は笑みを返して森岡の待っている応接室に向かった。
 「‥‥‥‥」
 ドアノブに手をかけたまま、大きく深呼吸する。
 「お待たせしました」
 室内に入ると、森岡と、今は森岡の妻となった真理子がいた。
 「やっと来たか。全く‥‥」
 私を見た森岡の第一声はそれだった。
 「こんなとこで事務員してるなんて、あなた、よっぽどこの業界が好きみたいね」
 真理子の人を見下すようなその言い方は、全く変わっていない。
 「‥‥‥‥」
 私は丁寧にお辞儀をする。
 「それで当社にどのようなご用件でしょうか?」
 「ああ、実はな‥‥紗和‥‥お前を迎えに来たんだ」