月明かりの下で、あなたに恋をした


10月。市立美術館が、大規模改修工事を終えてリニューアルオープンした。

その記念企画として『新進絵本作家展』が開催されることになり、私の原画も展示されることになった。

オープン初日の午後、私と律さんは美術館を訪れた。

「懐かしいね、ここ」

私は目を細める。

「あの夜、閉じ込められた美術館……あれから、もう一年近く経つんだね」

美術館は改修されて、以前よりも明るく広くなっていた。

『新進絵本作家展』の会場に入ると、壁には何人かの新人作家の原画が展示されていた。

そして、その中に……私の『星降る森のおくりもの』の原画もあった。

「すごい。自分の絵が、展示されているなんて」

私は感動で言葉に詰まった。

信じられない。大学生のあの日、段ボールに封印した絵が今、多くの人の目に触れている。

「彩葉の作品は、沢山の人に届いているよ」

律さんが、優しく背中を撫でてくれた。

展示の横には、小さな説明パネルがあった。

『柊彩葉は、橘マリの作品に深く影響を受けた新進気鋭の絵本作家である。26歳で夢を再び追いかけ始めた彼女を、「遅すぎることはない」という橘マリの言葉が背中を押した。』

私は、パネルを読んで目頭が熱くなった。

「私の名前が、橘マリさんの隣に……」
「彩葉は、彼女の精神をしっかり受け継いでいるよ」

私たちは、展示室の奥へと進む。そこには、新しく作られた『橘マリ常設展示コーナー』があった。