月明かりの下で、あなたに恋をした


「あった!」

私は、棚に並んでいる自分の絵本を手に取る。

「本当に……出版されたんですね」

律さんが隣で微笑む。

「おめでとうございます、柊先生」

「そんな、先生だなんて」

「いいえ。あなたはもう、立派な絵本作家です」

照れていると、近くで母親と小さな女の子が絵本を選んでいるのが見えた。

私の本、手に取ってくれるかな……。心臓がドキドキと脈打つ。

女の子が、私の本を開く。パラパラとページをめくり、動物たちの絵をじっと見つめている。

彼女の指が、キツネの絵で止まった。そして──

「ママ、これがいい」

その小さな、天使のような声に、息が止まった。女の子は、私の本を選んでくれたのだ。

母親と一緒にレジへと向かう姿を見て、私は胸がいっぱいになる。

「見た? 彩葉の本が、子どもに選ばれたよ」

律さんが、耳元で囁く。

私の本が、誰かに届いた。この上ない喜びに熱いものが込み上げ、涙が頬を伝う。

「これが……作家としての幸せなんだね」
「ああ。これから先、もっと多くの人に届くよ」



書店を出て、私たちは近くの公園のベンチに座った。初夏の風が心地よい。

「彩葉。これからが、本当のスタートだね」
「うん。次の作品も頑張りたいな」

私が答えると、律さんは真剣な顔つきになった。

「彩葉、ちょっと提案があるんだけど」
「提案?」

律さんは少し照れたように視線を逸らしてから、真っ直ぐ私を見つめた。