「あった!」
私は、棚に並んでいる自分の絵本を手に取る。
「本当に……出版されたんですね」
律さんが隣で微笑む。
「おめでとうございます、柊先生」
「そんな、先生だなんて」
「いいえ。あなたはもう、立派な絵本作家です」
照れていると、近くで母親と小さな女の子が絵本を選んでいるのが見えた。
私の本、手に取ってくれるかな……。心臓がドキドキと脈打つ。
女の子が、私の本を開く。パラパラとページをめくり、動物たちの絵をじっと見つめている。
彼女の指が、キツネの絵で止まった。そして──
「ママ、これがいい」
その小さな、天使のような声に、息が止まった。女の子は、私の本を選んでくれたのだ。
母親と一緒にレジへと向かう姿を見て、私は胸がいっぱいになる。
「見た? 彩葉の本が、子どもに選ばれたよ」
律さんが、耳元で囁く。
私の本が、誰かに届いた。この上ない喜びに熱いものが込み上げ、涙が頬を伝う。
「これが……作家としての幸せなんだね」
「ああ。これから先、もっと多くの人に届くよ」
◇
書店を出て、私たちは近くの公園のベンチに座った。初夏の風が心地よい。
「彩葉。これからが、本当のスタートだね」
「うん。次の作品も頑張りたいな」
私が答えると、律さんは真剣な顔つきになった。
「彩葉、ちょっと提案があるんだけど」
「提案?」
律さんは少し照れたように視線を逸らしてから、真っ直ぐ私を見つめた。



