3月から5月にかけて、私と律さんは毎週末、ゲラ刷りのチェックを重ねた。
印刷前の最終校正は、二人で作り上げていくかけがえのない喜びがあった。
◇
5月下旬。律さんから連絡があった。
【印刷所から上がってきました! 実物を見に来ませんか?】
午後の光が傾く時間、会社を早退して印刷所へ向かうと、入口で律さんが待っていてくれた。彼の手には、一冊の本が。
「これです」
律さんが差し出した本は、ほんのりとインクの匂いがした。
私は震える手で、本を受け取った。
『星降る森のおくりもの
作・絵:柊彩葉』
表紙に、自分の名前が著者として印刷されている。目にした途端、胸の奥から熱いものが込み上げてきた。
本当に、私の本なんだ。ページをめくると、印刷された絵は原画とは違う輝きを放っていた。
紙の質感、インクの鮮やかさ。全てが、作品に命を吹き込んでいる。
「綺麗……」
「素晴らしい本になりましたね」
律さんが、慈しむように見つめる。
「私の描いたものが、本に……」
「ええ。あなたの夢が、形になりました」
私は本を抱きしめる。
「律さん、ありがとう」
涙声で告げると、律さんが優しく微笑む。
「こちらこそ。彩葉と二人三脚で歩めて、俺も幸せだったよ」
律さんが私の肩を抱いた。私は、彼の温かい胸に顔を埋める。
幸せだ。夢が叶った安堵感と、愛する人に抱かれている幸福感が全身を満たした。
◇
梅雨入り前の澄んだ空気が漂う、6月のある日。ついに、『星降る森のおくりもの』の発売日を迎えた。
私と律さんは、大きな書店の絵本コーナーに立っていた。



