月明かりの下で、あなたに恋をした


「初版は……正直に言うと、かなり控えめです」

葛城さんが、申し訳なさそうに眉根を下げる。

「いくらですか?」

「2000部です」

「それでも嬉しいです。2000人に届くんですから」

私が微笑むと、葛城さんの口角が上がった。

デザートのケーキが運ばれてきた。

食べ終わる前に、言わなきゃ……。だって、今日伝えるって決めたんだもの。

私は、真っ直ぐ彼を見据える。

「葛城さん」
「はい?」
「実は……お話したいことがあって」

葛城さんが真剣な顔になった。鼓動が痛いくらいに速くなる。

言わなきゃ。今、言わなきゃ。

「あの、私……」

息を深く吸い込む。

「私、葛城さんのことが……好きです」

葛城さんの目が、大きく見開かれた。

「仕事のパートナーとして、だけじゃなく……一人の人として、好きです」

話し出したら、もう止まらなかった。

「葛城さんと一緒にいると、心が満たされるんです。一緒に作品を作っている時間が、本当に楽しかった」

葛城さんは、何も言わずに私を見つめている。

「もし良かったら……これからは恋人として、一緒にいてくれませんか」

言った、ついに言ってしまった……! もう後戻りはできない。

恐る恐る葛城さんを見ると、彼は口を閉ざしたまま。

……どうして? どうして、何も言ってくれないの?

あまりにも長い沈黙に、私の心臓は縮みそうになる。