翌週、また急な仕事が入った。そして、その次の週も。
12月は、広告業界の繁忙期。クリスマス・年末商戦に向けて、クライアントからの依頼が殺到する。
私は、毎日深夜まで残業した。疲れが溜まっていく一方。だけど、葛城さんとの約束だけは守りたくて、土曜日はいつものカフェに通い続けた。
◇
ある土曜日。疲労がたまっていた私は、打ち合わせ中に何度も集中力が途切れた。
「柊さん」
葛城さんが真剣な顔で告げた。
「今日は、もう帰ってください」
「え? まだ時間が……」
「あなた、もう限界です」
葛城さんの声は、いつになく厳しかった。
「そんな状態で無理して作品を作っても、良いものはできません。それに……あなたの体が心配です」
その言葉に、私は唇を噛んだ。作品ではなく、「私の体」を心配してくれるなんて。
「すみません……」
「謝らないでください。ただ、無理はしないで」
葛城さんが優しく言った。
「来週は、打ち合わせを休みませんか? 一度ゆっくり休んで、体調を整えてください」
「でも、作品が……」
「作品より、柊さんの方が大切です」
その言葉に、胸が詰まった。これ以上、この人の優しさに甘えてはいけない、と思った。
「……わかりました」
私はただ、頷くしかできなかった。
私は、葛城さんに迷惑をかけているんじゃないか。
両立すると言っておきながら、仕事を理由に打ち合わせを疎かにしているんじゃないだろうか──。



