月明かりの下で、あなたに恋をした


翌週、また急な仕事が入った。そして、その次の週も。

12月は、広告業界の繁忙期。クリスマス・年末商戦に向けて、クライアントからの依頼が殺到する。

私は、毎日深夜まで残業した。疲れが溜まっていく一方。だけど、葛城さんとの約束だけは守りたくて、土曜日はいつものカフェに通い続けた。



ある土曜日。疲労がたまっていた私は、打ち合わせ中に何度も集中力が途切れた。

「柊さん」

葛城さんが真剣な顔で告げた。

「今日は、もう帰ってください」

「え? まだ時間が……」

「あなた、もう限界です」

葛城さんの声は、いつになく厳しかった。

「そんな状態で無理して作品を作っても、良いものはできません。それに……あなたの体が心配です」

その言葉に、私は唇を噛んだ。作品ではなく、「私の体」を心配してくれるなんて。

「すみません……」
「謝らないでください。ただ、無理はしないで」

葛城さんが優しく言った。

「来週は、打ち合わせを休みませんか? 一度ゆっくり休んで、体調を整えてください」

「でも、作品が……」

「作品より、柊さんの方が大切です」

その言葉に、胸が詰まった。これ以上、この人の優しさに甘えてはいけない、と思った。

「……わかりました」

私はただ、頷くしかできなかった。

私は、葛城さんに迷惑をかけているんじゃないか。

両立すると言っておきながら、仕事を理由に打ち合わせを疎かにしているんじゃないだろうか──。