【柊さんへ
分かりました。
午後5時で大丈夫です。
お仕事、頑張ってください。
葛城】
メールを見てほっとするのと同時に、彼の優しさに胸が熱くなった。
◇
土曜日。私は会社で朝から作業をしていた。クライアントからの要望を形にしていく。デザインを何度も修正して、ようやく納得できるものができた。
時計を見ると、午後4時半。
いけない! 待ち合わせに遅れちゃう。私はデータを送信し、急いで会社を出た。
◇
カフェに着いたのは、午後5時15分。15分遅刻してしまった。
「すみません、遅くなって!」
息を切らしながら席に着くと、葛城さんが穏やかに微笑む。
「大丈夫ですよ。お疲れ様です」
「本当に、すみません」
「謝らないでください。お仕事、大変だったんでしょう?」
その言葉に、涙腺が緩んだ。どうしてこの人は、こんなにも優しいんだろう。
それから、私たちは打ち合わせを始めた。だけど、疲れのせいか全然集中できない。
「柊さん、大丈夫ですか?」
葛城さんが心配そうに、私の顔を覗き込む。私のせいで、彼の大切な時間を奪っていると思うと、胸が潰れそうだった。
「すみません、ちょっと疲れていて……」
「今日は、早めに切り上げましょう」
「ほとんど進んでいないのに……」
「無理しないでください。体調が一番大切です」
葛城さんが優しく言った。
その日は、1時間ほどで打ち合わせを終えた。カフェを出ると、冷たい風が吹いていた。
「送ります」
葛城さんが、当然のように言ってくれた。
「ありがとうございます」
並んで歩いていると、葛城さんが口を開く。
「柊さん、あまり無理しないでくださいね。仕事と創作、両方頑張りすぎると体を壊します」
「大丈夫ですよ、これくらい」
「……そうですか」
葛城さんの声が、少し寂しげに聞こえた。



