月明かりの下で、あなたに恋をした


【柊さんへ

分かりました。
午後5時で大丈夫です。
お仕事、頑張ってください。

葛城】

メールを見てほっとするのと同時に、彼の優しさに胸が熱くなった。



土曜日。私は会社で朝から作業をしていた。クライアントからの要望を形にしていく。デザインを何度も修正して、ようやく納得できるものができた。

時計を見ると、午後4時半。

いけない! 待ち合わせに遅れちゃう。私はデータを送信し、急いで会社を出た。



カフェに着いたのは、午後5時15分。15分遅刻してしまった。

「すみません、遅くなって!」

息を切らしながら席に着くと、葛城さんが穏やかに微笑む。

「大丈夫ですよ。お疲れ様です」

「本当に、すみません」

「謝らないでください。お仕事、大変だったんでしょう?」

その言葉に、涙腺が緩んだ。どうしてこの人は、こんなにも優しいんだろう。

それから、私たちは打ち合わせを始めた。だけど、疲れのせいか全然集中できない。

「柊さん、大丈夫ですか?」

葛城さんが心配そうに、私の顔を覗き込む。私のせいで、彼の大切な時間を奪っていると思うと、胸が潰れそうだった。

「すみません、ちょっと疲れていて……」

「今日は、早めに切り上げましょう」

「ほとんど進んでいないのに……」

「無理しないでください。体調が一番大切です」

葛城さんが優しく言った。

その日は、1時間ほどで打ち合わせを終えた。カフェを出ると、冷たい風が吹いていた。

「送ります」

葛城さんが、当然のように言ってくれた。

「ありがとうございます」

並んで歩いていると、葛城さんが口を開く。

「柊さん、あまり無理しないでくださいね。仕事と創作、両方頑張りすぎると体を壊します」

「大丈夫ですよ、これくらい」

「……そうですか」

葛城さんの声が、少し寂しげに聞こえた。