月明かりの下で、あなたに恋をした


「これです!」

葛城さんが声を上げた。

「これなら、物語が流れる。読者の目線が、自然と次のページに向かう」

私も画面を見て、納得した。

「本当ですね。良かった……」

疲れたけれど、達成感があった。やっと、壁を乗り越えたんだ。

「柊さん、よく頑張りましたね」

その声に、私は涙が溢れそうになった。

「葛城さんがいなかったら、私、今頃きっと諦めていました」

「いえ、柊さんが懸命にやりきったからです」

葛城さんが、ふわりと微笑む。その笑顔を見て、胸が締め付けられた。

好きだ。やっぱり私は、葛城さんのことが好き。

だけど、今は言えない。作品が完成するまでは、絶対に──。



12月に入ってから、3週間。ある日、会社で思わぬトラブルが起こった。

リブランディングのクライアントから、急な追加依頼。しかも締切は、今週末。

「柊、頼むぞ。お前しか任せられないんだ」

戸田課長の言葉に、私は頷く。

「わかりました」

返事をしたものの、その週末は葛城さんとの打ち合わせがある。もしかしたら、待ち合わせに行けないかもしれない。

悩んだ末、私は葛城さんにメールを送った。


【葛城さんへ

申し訳ありません。
急な仕事が入ってしまい、
今週末の打ち合わせ、
時間を遅らせていただけないでしょうか?

午後5時以降なら、いけると思いますので。

柊】


彼から、すぐに返信が来た。