私たちは窓際の席に腰をおろす。メニューを見ながら、葛城さんが口を開く。
「ここ、チーズケーキが絶品なんです。俺のおすすめ」
「じゃあ、それでお願いします」
注文を終えると、葛城さんが私を見つめた。
「柊さん、広告代理店に入って、何年目ですか?」
「4年目です」
「そうですか。大変じゃないですか? 広告業界って、激務だって聞きますが」
「確かに、忙しいです。でも……最近、少し変わってきたかもしれません」
私は、言葉を選びながら続けた。
「今まで、自分の意見を言えなかったんです。『はい』しか言えなくて。だけど、葛城さんと会ってから……少しずつ、変わってきた気がします」
葛城さんが、驚いたように目を見開いた。
「俺と会ってから?」
「はい。葛城さんが、私の作品を信じてくれたから。『まだ終わりじゃない』って言ってくれたから」
私は視線を落とす。
「4年間、ずっと自分を否定し続けてきました。『才能がない』『絵本作家になんてなれない』って。でも、葛城さんに会って……もう一度、信じてみようって思えたんです」
「ありがとうございます。そう言ってもらえて、嬉しいです」
葛城さんが静かに告げたその時、チーズケーキが運ばれてきた。
「美味しい!」
ふんわりとした食感に私が感嘆の声を上げると、葛城さんが目を細めた。
「でしょう? 仕事で落ち込んだ時に、ここのケーキを食べて、気持ちを立て直すんです」
私たちは、他愛もない話を始めた。好きな映画のこと。子どもの頃の思い出。
「葛城さんは、ご家族は?」
私が尋ねると、葛城さんは少し考えてから答えた。



