ケータイ電話が鳴る。
もちろん、私は持っていないので、これはジュノのもの。

うーん。
どうして悪魔も持っているケータイを、私は持つことが出来ないのかしら……。

そんなことを思っている私に、仕草と目線だけで、しぃと合図すると電話を取り上げた。

「は~い、ユーコちゃん☆」

一瞬のうちに、そこまでテンションあげる技、弟子入りしたら教えてくれるかしら?

「うん、全然。
今?もちろん、ユーコちゃんのこと考えていたところだよ」

こんな嘘に騙される女の顔が見てみたい。

「そうそう。
やっぱりあるんだよね。
相手のこと考えていると電話が鳴るってこと」

ないない。
互いに暇を持て余している恋人同士でもあるまいし。

「うーん、運命?
僕そういう難しいことは分からないんだ、ごめんね。
でも、今からユーコちゃんに逢いに行くことは出来るよ♪
そのまま一緒にうちの店までデートしてくれる?
うわぁ、嬉しいなぁ」

言ってる端から既に立ち上がっているんですけど。
じゃね、と、手だけで合図してジュノはそのまま帰っていった。

爽やかな笑顔はそのままに。

……。


私、真剣にバイトしようかしら。

ジュノがああやって稼いだお金でこのコーヒーを飲んでいることが、いささか申し訳なく思えてきた水曜日の夕方。

ボサノバの音楽だけが、場違いなほど柔らかくこの部屋を包んでくれていた。