私の思考を読んだのか、紅い唇が甘い弧を描く。

「ユリアが良いって言ったら、残りの人生俺にくれる?」

それは、とても真面目な質問口調で、私は思わず目を丸くする。
尊大な魔王様に似つかわしくない。

今夜は本当に何かあったのかしら。

「残りって言うのは、次の輪廻転生に入るまでってこと?
それとも……」

喋っている途中なのに、キスで封じて、それからゆっくりと耳元に囁く。

「本当に意地悪だね。
ユリアって、本当はドSでしょ」

「違うわよ、見て分からない?」

「さぁ、見ただけじゃちょっと。
こういうのって、だいたい見かけを裏切るものだしさ。
ヤってみたら、分かるかも」

いつもの軽口でそう言った後、微風が吹くくらいの小さな小さな声がした。

「いい加減、待ちくたびれた」


私は鼓動が止まる衝撃に見舞われ、一切の言葉を失うほか無い。
キョウは黒曜石の瞳に切なさの色を宿し、唇を空虚な笑みで飾っている。

それは、サンタクロースがこないと分かっていながら、それでも信じて待ち続ける純粋な子供の表情に良く似ていた。

諦めきれない諦めを、その胸に抱いている。

……ズルイ。
  本当に、悪魔っていうのは、ズルいんだから。


  突然現れて。
  何もかも勝手に浚っていったくせに。

  まるで、これじゃ。


  いつか、私がアナタを裏切って捨てる日が来る、みたいじゃない。



怯えているのは、私のほうだと信じて疑わなかったのに。
これじゃ、まるで。

私が怯えさせているみたいじゃない。

そんなタマじゃないくせに。