教室に入った瞬間、空気が変わった。
ざわつきがピタッと止まり、
みんなが一斉にこちらを向く。
「……来た……」
「ほんとに連れてきた……」
「え、マジで仲良い感じ?」
「手、離してない……」
その中でも、特に強烈な視線を向けてくる女子がいた。
茶色のふわふわした巻き髪に、
ほんのりピンクのリップ。
明らかに“可愛く見える”ことを計算しているタイプ。
彼女は私を見た瞬間、
唇の端を引き下げるように、露骨に不機嫌な顔をした。
(……この人、絶対時雨くん狙ってる……)
嫌でも分かるほどの圧。
そして、予想通り。
教室に入って数秒後、彼女はまっすぐ私のところへ歩いてきた。
「ねぇ、伊達雪菜さん?」
「……う、うん」
にっこり笑っているけど、目は笑っていない。
その笑顔の奥から
“なんであんたが?”
“どんな手使ったの?”
と、声が聞こえてくるみたい。
「朝から織田くんと一緒だったよね〜?」
「どういう関係なの?」
周囲の視線が一斉に私に集まり、
喉がきゅっと締め付けられた。
どう返せばいいかわからず、「ただ一緒に……」と言おうとした瞬間。
——“コンッ” と机を叩く音がして、空気が凍った。
「お前、何してんの」
背後から聞こえた低い声。
時雨くんだ。
女子はびくっと震えたけど、
すぐさま笑顔を作り直して振り返る。
「あ、時雨くん。別にただお話してて——」
「雪菜から離れろ」
声は穏やかじゃない。
低い、冷たい、拒絶そのものだった。
女子は戸惑い、俯きながら言う。
「な、なんでそんな言い方……」
「質問に答えろよ」
机に手をつき、女子に影を落とす。
時雨くんの表情は笑っていない。
「何の用だよ、雪菜に」
「え……ただ、話そうとしただけで……」
「話す必要ねぇだろ。雪菜の周りをうろつくな」
教室中の空気が一気に張りつめた。
女子は必死に反論する。
「で、でも……時雨くんだって、私のこと見てくれたことあ——」
「覚えてねぇな」
バッサリ切り捨てられ、女子は青ざめる。
「ふ、ふざけないでよ……!
伊達さんが時雨くんに媚び売ってるんでしょ!?
じゃなきゃ総長が新入生なんかと——」
胸が痛い言葉。
否定したいのに声が出ない。
でも、時雨くんが先に反応した。
「——は?」
その一言で教室の温度が2度くらい下がった気がした。
「媚び売ってんのは、どっちだよ」
女子が言葉を飲む。
時雨くんはゆっくりと続ける。
「利用してんのは俺の方だろ」
「……え?」
「雪菜が欲しくて、俺が近づいたんだ。
雪菜は何もしてねぇ」
女子は完全に黙り込み、
時雨くんは冷たい視線をひとつ投げたあと、私の手首をそっと掴んだ。
「雪菜、こっち」
引かれるまま席に戻ると、
彼は少しだけ俯いてぽつりと言った。
「……嫌なこと言われたな」
その声は、いつもの強さじゃなくて、
どこか申し訳なさそうで、優しかった。
「で、でも……大丈夫……」
「大丈夫じゃねぇよ」
時雨くんは小さく息を吐き、私の手を包むように握る。
「雪菜は俺のもんだって、ちゃんとわからせる。他のやつが口出しできないくらいに」
優しいのに、独占欲が混ざる声。
「雪菜、見てろよ。俺、お前のためなら何だってやるから」
その目は、本気だった。
怖いのに、嬉しい。
その矛盾が胸の中で渦巻き、息が苦しくなるほど熱くなる。
ざわつきがピタッと止まり、
みんなが一斉にこちらを向く。
「……来た……」
「ほんとに連れてきた……」
「え、マジで仲良い感じ?」
「手、離してない……」
その中でも、特に強烈な視線を向けてくる女子がいた。
茶色のふわふわした巻き髪に、
ほんのりピンクのリップ。
明らかに“可愛く見える”ことを計算しているタイプ。
彼女は私を見た瞬間、
唇の端を引き下げるように、露骨に不機嫌な顔をした。
(……この人、絶対時雨くん狙ってる……)
嫌でも分かるほどの圧。
そして、予想通り。
教室に入って数秒後、彼女はまっすぐ私のところへ歩いてきた。
「ねぇ、伊達雪菜さん?」
「……う、うん」
にっこり笑っているけど、目は笑っていない。
その笑顔の奥から
“なんであんたが?”
“どんな手使ったの?”
と、声が聞こえてくるみたい。
「朝から織田くんと一緒だったよね〜?」
「どういう関係なの?」
周囲の視線が一斉に私に集まり、
喉がきゅっと締め付けられた。
どう返せばいいかわからず、「ただ一緒に……」と言おうとした瞬間。
——“コンッ” と机を叩く音がして、空気が凍った。
「お前、何してんの」
背後から聞こえた低い声。
時雨くんだ。
女子はびくっと震えたけど、
すぐさま笑顔を作り直して振り返る。
「あ、時雨くん。別にただお話してて——」
「雪菜から離れろ」
声は穏やかじゃない。
低い、冷たい、拒絶そのものだった。
女子は戸惑い、俯きながら言う。
「な、なんでそんな言い方……」
「質問に答えろよ」
机に手をつき、女子に影を落とす。
時雨くんの表情は笑っていない。
「何の用だよ、雪菜に」
「え……ただ、話そうとしただけで……」
「話す必要ねぇだろ。雪菜の周りをうろつくな」
教室中の空気が一気に張りつめた。
女子は必死に反論する。
「で、でも……時雨くんだって、私のこと見てくれたことあ——」
「覚えてねぇな」
バッサリ切り捨てられ、女子は青ざめる。
「ふ、ふざけないでよ……!
伊達さんが時雨くんに媚び売ってるんでしょ!?
じゃなきゃ総長が新入生なんかと——」
胸が痛い言葉。
否定したいのに声が出ない。
でも、時雨くんが先に反応した。
「——は?」
その一言で教室の温度が2度くらい下がった気がした。
「媚び売ってんのは、どっちだよ」
女子が言葉を飲む。
時雨くんはゆっくりと続ける。
「利用してんのは俺の方だろ」
「……え?」
「雪菜が欲しくて、俺が近づいたんだ。
雪菜は何もしてねぇ」
女子は完全に黙り込み、
時雨くんは冷たい視線をひとつ投げたあと、私の手首をそっと掴んだ。
「雪菜、こっち」
引かれるまま席に戻ると、
彼は少しだけ俯いてぽつりと言った。
「……嫌なこと言われたな」
その声は、いつもの強さじゃなくて、
どこか申し訳なさそうで、優しかった。
「で、でも……大丈夫……」
「大丈夫じゃねぇよ」
時雨くんは小さく息を吐き、私の手を包むように握る。
「雪菜は俺のもんだって、ちゃんとわからせる。他のやつが口出しできないくらいに」
優しいのに、独占欲が混ざる声。
「雪菜、見てろよ。俺、お前のためなら何だってやるから」
その目は、本気だった。
怖いのに、嬉しい。
その矛盾が胸の中で渦巻き、息が苦しくなるほど熱くなる。



