翌朝、時雨くんと手を繋いで学校へ向かったことは、どうやら瞬く間に全校に広がったらしい。

 校門をくぐった瞬間から、視線が刺さる。

 「ねぇ、見た? 織田時雨と一緒にいるあの子」
 「どこの誰? 新入生だよね?」
 「え、てか手繋いでたよね、絶対」
 「うそでしょ……私、一年の中で狙うつもりだったのに……」

 全部聞こえる。
 全部聞きたくない。

 だけどそのざわつきの中心で、
 時雨くんはいつも通り無表情だった。

 いや、正確には——
 私の肩に手を置いて、周囲に堂々と見せつけている顔。

 「雪菜」

 名前を呼ばれた瞬間、胸がぎゅっとなる。

 「下向くなって言ったよな」

 「……でも、みんな見てるから……」

 周りの視線が痛い。
 恥ずかしさで顔が熱くなる。

 だけど時雨くんは、わざと周囲に聞こえるように言う。

 「見られて困ることなんかねぇだろ。雪菜は俺の隣にいるんだから」

 ……本当に、この人は。
 こういうところが、心臓に悪い。

 けれど、その“俺の隣”という言葉に、不思議と安心してしまう自分がいた。

 廊下を歩くと、女子たちが露骨に目で追ってくる。
 噂を確かめるみたいに。

 「……すごい視線だね……」

 「気にすんな」

 時雨くんは軽く肩に手を回し、こちらに引き寄せる。

 「俺が守るから」

 その言葉だけは、どんな視線よりも強かった。