時雨くんに抱きしめられた熱が、
まだ体の奥に残ったまま、私たちは校門を出た。
夕方の風が少し涼しくて、
その温度差で余計に彼の腕の熱がわかる。
歩き出すと、自然に時雨くんの手が伸びてきて、
私の指に絡んだ。
いつもより、強い。
「……さっきの、本気でムカついた」
歩きながらぽつりと落ちた声は、
怒ってるというより、拗ねてる。
「ごめんね。
加瀬くんが困ってたから、つい」
「つい、で他の男の頼み聞くのやめろ」
「そんなこと言われても……」
「……俺が頼んだら、聞いてくれる?」
「え? 時雨くんのなら……聞くよ?」
「じゃあ、今日の帰りはずっと手ぇ繋いどけ。
離したら怒る」
「……子どもみたい」
「お前の前じゃ子どもでいい」
(……ずるい)
そんなこと言われたら、
もう何も言い返せなくなる。
繋いだ手を軽く引かれて、
私は時雨くんの隣に寄せられる。
「雪菜」
「なに?」
「……本当に好きだから。
誰かに取られんじゃねぇかって、
考えただけで頭おかしくなる」
その告白は、
さっきの嫉妬の理由をひとつずつほどくみたいに
真っ直ぐだった。
「誰にも取られないよ」
「口だけじゃ信用できねぇ」
言い返す前に、
時雨くんが立ち止まって私の頭に手を置く。
指が髪を撫でて、
そのまま頬に沿って下りてくる。
「雪菜が“俺が好き”って言った時、
ほんとどうにかなるかと思った」
「あれ、本気で照れてたよね」
「煽るな。
……俺、あんま余裕ねぇんだから」
小さく笑うと、時雨くんは眉を下げて、
でも手は絶対に離さない。
むしろ、私を引き寄せて、
体が触れるくらい近くを歩かせる。
「今日、もう少し一緒にいていい?」
「うん、いいよ」
「……よし」
満足げに息を吐いて、
私はその横顔を見上げた。
不良で、強くて、時々怖いくらい真剣で。
だけどこうやって私の前では……
誰より不器用で、誰より優しい。
(時雨くん、やっぱり可愛いな……)
そう思って笑うと、
彼の指先がぎゅっと強く絡んだ。
「雪菜、あんま笑うと……また好きになる」
「時雨くん……」
「もう十分好きなんだけど、それ以上になんの止められねぇ」
その声の甘さが、
夕暮れよりもずっと沁みた。



