時雨くんの会議が終わり、少し外の空気を吸おうと
 私は基地の裏手に出ていた。

 風が気持ちよくて、小さな深呼吸をしていたら——

「伊達さーん、おつかれ」

 ゆるい笑顔の黒焔のメンバー、陸(りく)くんが顔をのぞかせた。

「さっきは総長、すげぇ顔してたよな?
 ……ごめんな、怖くなかった?」

「あ、ううん。平気だよ。
 時雨くんの気持ち、わかってるし」

「そっか。ならよかった」

 陸くんが安心したように笑うと、
 その隣から別のメンバーが顔を出す。

「伊達さん、腹減ってね? ほれ」

 紙袋を渡されて、中を見ると、
 唐揚げとポテトがぎっしり。

「え、こんなに?」

「総長の彼女だろ?
 黒焔的には、まあ……大事な客人だし?」

「……それ、時雨くんには内緒な?」

「だよな!言わねぇ!」

 わーっと笑い声が上がって、
 私は思わずつられて笑ってしまった。

(黒焔って……怖い人たち、って思ってたけど)

 実際は、
 時雨くんを大事にしていて、
 時雨くんが大事にする人は、ちゃんと大事にしてくれる。

 そんな空気が心地よくて、胸があたたかい。

     *

「……雪菜、なに笑ってんの?」

「わっ、時雨くん!」

 いつの間にか後ろに立っていた時雨くんが、
 当然のように私の手から紙袋を奪った。

「おい、これ誰が渡した?」

「お、総長バレた!」
「内緒って言ったのに!」

「……おまえら、雪菜に勝手に食わせようとすんな。
 添加物多そうだし」

「総長、急に健康気にすんなよ!」

 黒焔メンバーが大笑いする中、
 時雨くんは紙袋を片手でひょいっと持ち上げ、
 もう片方の手で私の頭を優しく撫でる。

「雪菜、腹減ってんなら言えよ。
 俺が買ってくるから」

「えっ……あの、これも美味しそうだったよ?」

「だーめ。
 雪菜は俺が選んだもんだけ食え」

「過保護スイッチ入ったな」
「総長の雪菜フィルター強すぎだろ」

 みんなのツッコミを完全無視して、
 時雨くんはそのまま私の手を握った。

「行くぞ。二人で飯」

「うん……!」

     *

 コンビニで食べ物を選んで外に出ると、
 黒焔のメンバーたちが手を振ってきた。

「雪菜さーん、また来て!」
「今度は総長いない時なー!」

「は!? 来んな!」

 時雨くんの怒声が響いて、
 みんなが爆笑する。

 その声を聞きながら、
 私はふっと笑って時雨くんの腕に絡んだ。

「時雨くん、黒焔のみんな優しいね」

「……まあ、悪いやつらじゃねぇよ。
 雪菜のこと、ちゃんと守るとは思うし」

「うん。私も安心した」

 そう言うと、
 時雨くんがそっと私の頭を自分の肩に近づけるように寄せて、
 小さく呟いた。

「……でも、やっぱ雪菜に近づくのは気に入らねぇ。
 俺の彼女なんだから」

「……もう、時雨くん」

 本当に、誰より不器用で——
 でも、誰より優しい。

 黒焔の笑い声が遠くに響く中、
 私は彼の腕にしっかりと寄り添った。