手を繋いだまま学校を出ると、春の夕日が街を橙色に染めていた。
「雪菜、家どこ?」
「え、えっと……歩いて十五分くらい……」
「じゃあ歩きだな」
当然のように言う時雨くんに、周りの視線が集まる。
暴走族の総長と歩いてるなんて、そりゃ目立つ。
でも……
繋いだ手を離そうとすると、時雨くんがぎゅっと握り直す。
「離すな」
「ひ、人前だよ……?」
「見せつけとけばいいだろ。雪菜は俺の隣にいるって」
その自信に満ちた言い方に、胸が熱くなる。
歩いている間、無言なのに不思議と落ち着いた。
時雨くんの歩幅に合わせてくれる優しさも、
無意識のように手を包み込む温度も、全部怖いくらい心に刺さる。
「ここ……私の家」
家の前に着くと、時雨くんは立ち止まり、
私の手を離さないまま私を振り向かせた。
「疲れてないか?」
「だ、大丈夫……」
「ふーん。雪菜って、俺の前だと強がるよな」
言われた瞬間、胸がきゅっとなる。
こんな短時間でどれだけ見抜かれてるんだろう。
時雨くんは一歩、私に近づいた。
夕日の光のせいだけじゃなく、距離が近い。
顔が熱くなるほど近くて、呼吸がぶつかりそう。
「……時雨くん?」
「雪菜」
低い声が耳のすぐ横で落ちる。
「俺だけ見てればいい」
心臓が跳ねるのが、彼に聞こえてしまいそうだった。
「学校でも、家でも、どこにいても。雪菜の目に映る男は……俺だけでいい」
指先で頬に触れてくる。
その優しさと支配の混ざった触れ方に、身体が固まる。
「他のやつに笑うなよ。俺、我慢できねーから」
甘い声なのに、奥のほうに刃みたいな独占欲がある。
逃げられない——
でも、逃げたくない。
「……うん」
やっと絞り出した声に、
時雨くんはゆっくり微笑んだ。
危険で、でも胸がときめく笑顔。
「いい子」
その一言で、全身が熱くなる。
「また明日、迎えに行くから」
離したくなさそうに指を絡めたまま、
名残惜しそうに手をほどき、時雨くんは背を向けて歩き出した。
その背中を見つめながら、私は思った。
——織田時雨の「離さない」という言葉は
たぶん、本気だ。



