ソファに並んで座っているのに、
 時雨くんの存在がやけに近く感じる。

 黒焔の基地は薄暗くて、
 蛍光灯の白い光が時雨くんの横顔に落ちていた。

「……なぁ雪菜」

 呼ばれた瞬間、肩がびくっと跳ねた。

 顔を向けると、
 時雨くんが思った以上に近くて――呼吸が止まる。

「そんな顔すんな。
 怖がらせてぇわけじゃねぇよ」

 手の甲に、彼の指先がゆっくり触れた。

(そんな……ゆっくり触ったら……)

 鼓動がそのまま伝わりそうで、
 逃げたくても逃げられなかった。



◆ 触れる理由を探すような指先

「……雪菜ってさ。
 なんでそんなに、俺のこと普通に信じてくれんの?」

「え……?」

「俺、黒焔の総長で、喧嘩も多いし……
 性格も、優しくはねぇだろ」

「優しいよ?」

 言った瞬間。

 時雨くんの指がぴたりと止まる。

「……そういうの、簡単に言うな」

「簡単じゃないもん」

 むしろ本当に、そう思っていた。

 人を大事にする目をしてる。
 私に対しては特に。

 そう伝えたかっただけなのに――

「……雪菜」

 低い息が、耳の近くで揺れる。

「そんなふうに言われたら……
 触れたくなる、我慢してたのに」

「と、時雨くん……」

「嫌なら言えよ。ちゃんと離れるから」

 そう言っているのに、
 指は離れないし、身体も少しずつ近づいてくる。

 雪菜を囲うように、
 時雨の片腕がソファの背に置かれた。

 逃げ道を塞ぐみたいに。



「……雪菜」

「……っ」

「お前が他の場所にいると落ち着かねぇのに、
 隣にいるとそれはそれで……落ち着かない」

「ど、どうすればいいの?」

「何もしなくていい。
 ただそばにいりゃ、それでいい」

 時雨くんの声は、
 黒焔のざらついた雰囲気に反して驚くほど優しい。

 なのに、
 その優しさが独占欲と同じくらい重い。