倉庫に入った瞬間、喧騒がぴたっと止まる。
「総長、連れてきたんすね」
「今日も雪菜ちゃん一緒かぁ〜」
笑ってるけど、誰も近づいてこない。
理由は、時雨くんの“圧”があまりにも露骨だから。
私は時雨くんの後ろを歩きながら、
なぜか胸がくすぐったくなった。
(……ここまで守るって、普通じゃないよね?)
「狼牙がまた動いててよ」
「で、聞いたんだけどさ……」
綾斗くんがちらっと私を見る。
「“総長が守ってる女がいる”って噂、
向こうにも広まってんだわ」
「……っ!」
全員の視線が時雨くんに集まる。
その瞬間。
――空気が一変した。
「それ……誰が流した?」
低い声。
冷たくて、でもどこか震えてる。
「し、時雨……」
「まあまあ落ち着けって」
「落ち着いてねぇよ」
彼は机を軽く叩き、私を振り返る。
「雪菜に手出すって話が、いちばんムカつくんだよ」
その言い方が――
怒りよりも、“大切すぎて怖い”って感情に聞こえた。
(そんな顔……どうして私に?)
「総長ってさ……さすがに気づいてると思ってたけど」
「雪菜ちゃん、総長に好きって言われてるようなもんじゃね?」
「は!? 言ってねぇだろ」
「いや言ってんだよ」
「態度で全部バレてる」
「総長が“人として好きになった女”なんて初めてだし」
時雨くんは一瞬固まり、
耳まで赤くなるという珍事を起こした。
「……は? 俺、そんな分かりやすい?」
「めっちゃ分かりやすい」
全員が即答するの、面白すぎる。
メンバーが少し離れた瞬間、
時雨くんがため息混じりに私へ向き直った。
「……なぁ雪菜」
「う、うん?」
「俺、お前のこと……好きなんだわ」
あまりにも真っ直ぐで、
不器用で、
でもどうしようもなく本気の声。
「だから、守るのは当然なんだよ。
弱点とかじゃなくて……」
少し間があいて。
「俺が雪菜を好きだから、離れらんねぇだけ」
(……え?
こんなに真剣に、私のこと……?)
胸がぎゅっと縮む。
“まだ好きって分からない”はずなのに、
苦しいくらい胸が熱くなる。
「総長〜、狼牙の件どうすんの?」
「決まってんだろ。
雪菜に関わる可能性があるなら――潰す」
「やっぱ好きじゃん!!」
「黙れ綾斗」
でも、時雨くんの視線はまっすぐ私だけを射抜いていた。
「雪菜。
お前が俺の気持ちに気づくまで待つけど……」
ゆっくりと近づく。
「好きかどうか分かんなくても、
俺のそばにいてくれればいい」
「……っ」
「好きになるの、急がなくていい。
ただ……誰にも渡す気はねぇから」
黒焔の歓声が上がるが、
私の耳にはもう何も入らなかった。
ただ、彼の言葉だけが胸で響いていた。



