テスト初日の夜。
私が家でノートをまとめている頃――スマホが震えた。
《雪菜。今から少し出てくる。黒焔の集会。
……心配すんな、すぐ戻る》
短いメッセージ。でも、行間が熱い。
(そういえば、黒焔の集まりって……大事なんだよね)
時雨くんは総長。
彼の背中にはたくさんの仲間がついてる。
少し不安になってスマホを握りしめていると、
またすぐに通知が届いた。
《雪菜は寝る前に連絡しろ。
俺が返す》
(……寝る前まで見張ってる気なの?)
でも、胸が温かい。
なんでこんなに嬉しくなるんだろう。
一方その頃――黒焔の溜まり場。
集会を仕切る時雨くんの声は、昼間の教室とは別物だった。
「最近、うちの縄張りにちょっかい出してくる奴らがいる。
……で、もう一つ。俺に手ェ出させるような真似をしたバカがいる」
低く響く声。
仲間たちがざわりと周囲を見回す。
「総長、それって……」
「学校のやつか?」
時雨は煙草を指で弄びながら、冷たく笑った。
「雪菜に絡んできた女子の話だよ」
空気が一瞬止まる。
「……あー。あの嫌がらせしてたやつ?」
「たぶん本人は軽い気持ちだったんだろうけどな」
目が笑っていない。
「あいつら、雪菜のこと泣かせた。
“俺の”前では泣かねぇって決めてんのに」
仲間たちの背筋が揃って震える。
「総長、どう処理する?」
「あいつらが雪菜に二度と近づかないようにする。
黒焔の名前使ってもいい。むしろ使え」
言い切る声が、夜気を切り裂いた。
「……雪菜、泣かせたやつ全員、俺が許さねぇ。
それが、総長としてじゃなく――彼氏候補としての仕事だ」
「候補って、もうほぼ本命じゃん……」
「うるせぇ。言わせんな」
けど、その横顔は隠しきれないほど甘かった。
「雪菜が俺以外のやつに怯えるとか、ありえねぇ。
守るのは、全部俺の役目だ」
家でスマホを手にしていた私は、
ふいに画面が光って胸が跳ねる。
《雪菜。終わった》
短くて無骨なのに、安心が流れ込んでくる。
《もう他の奴らが、お前に何かしてくることはねぇよ》
(え……どういう意味?)
打とうとした指を、次の通知がすぐ止めた。
《雪菜の涙は、俺の前だけでよくね?
……俺以外に見せんな》
画面の文字が、心臓に直接触れてきた。
(なんでそんなこと……)
理由なんて、わかってる。
時雨くんはいつも、
“守る”よりも、“独占”の色のほうが強い。
《もう寝ていい。
……寝顔見れねぇの、普通にムカつくけど》
最後の一行で、思わず笑ってしまう。
(寝顔、見たいんだ……)
胸がふわりと温かくなり、私は布団に潜った。
時雨くんが、どんな顔でメッセージを送ってるのか想像すると――
眠気より先に、頬が熱くなる。



