1週間なんて、ほんとうに一瞬だった。
今日からテスト。
朝のホームルームが終わると同時に、教室の空気がぴりっと張り詰めた。
「雪菜。大丈夫か?」
隣の席の時雨くんが、声を潜めて覗き込んでくる。
普段は不良の総長みたいな空気をまとってるのに、こういう時だけ妙に優しい。
「う、うん……勉強、一応したし」
「したし、じゃなくて。俺がさせた」
「そんな言い方……!」
昨日も、時雨くんの家で勉強会。
途中、ソファでくっついて休憩したせいで集中が削られたけど……いや、削ったのは時雨くんだけど……。
チャイムが鳴り、試験監督が入ってくる。
「始める前に。カンニング行為は――」
説明を聞きながらも、私は横目で時雨くんを見る。
彼はペンをくるくる回しながら、ちらっと私の顔を見て、ニッと笑った。
「雪菜。俺が昨夜教えたところ、絶対出るから。落とすなよ」
「し、しないよ!」
「信じてる。……てか落としたら、補習中ずっと迎えに来るけどな」
「なんで!?」
「心配だから」
もう……終わる前から疲れる。
「はじめ!」の合図とともに、いっせいに紙をめくる音が教室に響く。
目の前の問題を見る。
……あ。出てる。
時雨くんが「ここ重点な」って言ってたところ。
(よかった……!)
必死にペンを走らせていると、横からじっとした視線を感じた。
……時雨くんだ。
なに見てるの、集中してよ……と思って小声で囁く。
「時雨くん、前見て……」
「いや、雪菜、手震えてんぞ? 緊張してんのか」
「緊張はしてるけど! 試験中に話しかけないで……!」
「かわいくてつい」
「は、はぁ……!」
監督の先生がこっちを見る。
まずい。
時雨くんは舌打ちするように息を吐き、しぶしぶ前を向いた。
(集中させて……!)
だけど、どうしても意識してしまう。
だって、さっきの目が。
――“俺が守ってるから、安心して解けよ”
と言ってるみたいで。
「はい、終了―。答案は前の席の人に回してくださーい」
ふぅ、と息を吐く。
終わった……!
「雪菜」
「な、なに?」
提出を終えた時雨くんが、机に肘をついて私に寄る。
「頑張ったな」
「……ありがとう。時雨くんが教えてくれたから」
「おう。……で?」
「で?」
「ご褒美。ほしいだろ?」
「な、なにその言い方!」
頬が熱くなる。
彼はゆっくり指先で私の髪を摘まみ、目を細めた。
「このあと、昼休み。屋上来い。
二人きりで、ちゃんと褒めてやる」
「ふ、二人きり!?」
「当たり前。雪菜は――」
声が低くなる。
「俺に褒められて、生きてけ」
「な、なにそれ……!」
「落としても迎えに行く。
受かっても褒める。
……雪菜の全部、俺の範囲内だから」
窓の外。
光にきらめく校庭に、胸がきゅっとなる。
――テストより心臓に悪いよ、時雨くん。



