家の前の道を曲がると、
 伊達家の門灯がぽつんと灯っていた。

 なのに――
 時雨くんの腕が、離れるどころか強くなる。

「……着いちゃったね」

 そう言っても、時雨くんは足を止めたまま動かない。

 夜風が吹いても、私の手は彼の体温で熱い。

「雪菜」

「ん……?」

「帰したくねぇ」

 その声は小さかったけど、
 耳元に落ちた瞬間、全身が震えた。

「もう帰るの……? マジで?」

「だって……」

「だってじゃねぇよ」

 振り返った時雨くんの表情は、
 いつもみたいに余裕なんてなくて。

 欲と、独占と、寂しさが全部混ざった顔。

「雪菜、今日……ずっと可愛かった。
 横にいてくれて、嬉しかった。
 離れたくねぇって思った」

 彼は一歩近づき、私を門柱の前へ追い込むように立った。

「雪菜の家、ここじゃなきゃよかった」

「え?」

「家が遠かったら……もうちょい一緒にいれたのに」

 近すぎる。
 夜の空気が甘く溶けて、息が苦しくなるほど。

「時雨くん……」

「雪菜」

 指先が頬に触れ、
 そのまま首筋にそっとなぞられる。

「離したくねぇんだよ。
 本気で、帰したくねぇ」

 胸がきゅっと鳴った。

「明日また会えるよ……?」

「足りねぇよ」

 喉の奥で噛みしめるように言った。

「今日のお前、反則なんだよ。
 笑うし、俺の隣ちゃんと歩くし……
 触れたらもっと欲しくなるし」

「っ……」

「今、お前の手離したら……嫌で死ぬ」

 彼の声は、夜に溶けるほど低くて甘い。

 握られた手は温かくて、
 そこに込められた想いが全部伝わってきた。

「……雪菜、次の休みも空けとけよ」

「え?」

「デートする。今日より……もっと近いやつ」

「も、もっと近い……?」

「当たり前だろ。
 今日、途中で抑えた分……次、返してもらう」

 耳元に、そっと囁かれる。

「絶対、逃がさねぇから」

 夜の玄関前で、
 私はしばらく動けなかった。