夜のコンビニ前。
 《黒焔》のバイクがずらりと並ぶその場所は、夜風よりもずっと濃い緊張感がある。
 でも、私はもうここに来るのが怖くなくなった。

 隣に——時雨くんがいるから。

「雪菜、手。ほら」

 時雨くんが当たり前のように指を絡めてくる。
 ギュッと握られて、逃げられないみたいに。

「そんなに強く握らなくても……離れないよ?」

「……誰かのとこに行く気しねぇ?」

「行かないよ……!」

「じゃあ握っとけ。安心する」

 そう言われてしまうと、何も言い返せなくて、
 胸がじんわり熱くなる。

「総長、今日も雪菜ちゃん連れなんだな」

ミナトくんが笑って手を振る。

「うるせぇミナト。総長は今、機嫌いいんだ。刺激すんな」
 
副総長の 綾斗くんが小声で止める。

 綾斗さんの視線は、いつも落ち着いていて——
 まるで“本当に総長にふさわしい子か”確かめるようで、少し緊張する。

「みなさん、こんばんは。今日も……お邪魔してます」

 そう言うと、綾斗さんが静かに微笑んだ。

「伊達家のお嬢さんが来るなら、場が締まる」

「で、でも……伊達家なんて、そんな……」

「ん? 雪菜は伊達政宗の血だろ。本物の“武家の家系”だ」

 その言葉に、時雨くんの手が少しだけ強くなる。

「……綾斗。お前、わざとだろ」

「事実を言ってるだけだ。総長がこんなに入れ込む相手なんざ、滅多にいない」

 どくん——と胸が跳ねる。

 でも、時雨くんは隠す気なんて最初からない。

「雪菜は、俺の未来だよ」

「っ……み、未来……?」

「そうだ。俺が——暴走族の天下取るとき、隣にいるのは雪菜だけだ」

 暴走族の——天下。

 時雨くんが言うと、それは“夢”というより“確定事項”みたいに聞こえる。

「総長……マジで覚悟決めてんだな」
 
綾斗くんが口元をゆるめた。

「当たり前だろ」
 
時雨くんは迷い一つない目で言う。

「雪菜は俺のモンだ。離れる未来とか、ねぇよ」

「……時雨くん」

 その瞬間、手のひらが熱くて、心臓が痛くて、涙が出そうになった。

 ミナトさんが遠くからひそひそ声で騒ぐ。

「総長、なんか今日は特に重くね?」
「いや、これが通常運転だろ」
「いやいや、今日は“雪菜ちゃん連れ”だから濃度違うって!」

 綾斗さんが軽く笑う。

「今日はもう連れて行くんだろ? 総長」

 その問いに、時雨くんはすぐ答えた。

「決まってんだろ。雪菜を、夜の海に連れてく」

「え、海……?」

「雪菜に……俺の本気、全部聞かせたい」

 呼吸が止まった。

 時雨くんは、私の手を引きながら——
 まるで私が落ちないように、大切なものを扱うように歩いていく。

「行くぞ、雪菜」

「う、うん……」

「今夜は、忘れられない夜にしてやる」

 その言葉に逆らえる人なんて、きっといない。

 もちろん——私も。