顔をあげると、怒りに満ちた目があった。まるで猛禽類のような瞳は、隼人をまっすぐ見ている。

「な、なっ、なんだよお前は!」
「うちのスタッフに何かご用ですか?」

 淡々とした声は、今まで聞いたことのないものだった。

「はぁ? なに、お前がすずを働かせてるのかよ!」
「人聞きの悪いことを。彼女は自分の意思でうちの旅館に勤めてくれています」
「どうだか! こんな田舎の旅館よりうちの会社の方が給料いいに決まってんだろう! つーか、部外者は口を挟むな!」

 隼人の手が伸びてきて、私の手を再び掴もうとした。だけど、それを一鷹さんの手が遠慮なしに払い除けた。

「部外者とは聞き捨てならないな」

 穏やかさを失った声がいつもより少し低くなり、怒りに満ちた目はさらに鋭さを増した。

「部外者だろうが! 俺はすずの恋人だ。そいつを連れ帰る!」
「おかしなことをいう。私はすずの婚約者だ。お前の言葉を借りるなら、部外者には立ち去ってもらおうか」

 ……え? 婚約者っていった?
 突然の言葉に、私はまったく理解が追い付かない。