花嫁修行中なんて噂を立てられても、特に嫌がらせをされるわけでも、一鷹さんのファンに刺されるようなことが起きたわけでもない。
　年末が近づくにつれて寒さが厳しくなり、景色は白銀に彩られたけど、感傷に浸る間もない日々を過ごしていた。

　そんなある日、夕方到着のお客様を迎える用意をしていると、番頭の幹本さんに呼ばれた。

「早乙女さん、申し訳ないんだが、しばらく夜番を増やしても構わないか？」
「構いませんよ」
「……あー、その、クリスマスや年末年始だが」
「それも、お休みをもらうつもりはないって、伝えたじゃないですか」

　一ヶ月前のシフト調整で、一人アパートで過ごすくらいなら仕事をしますと伝えたのに。なにか問題があるのかな。今さら、休みをやるから遊びにいってこいといわれても、正直、行き場がないのだけど。

「いや、こちらとしては助かるよ。河村さんのご両親が体調を崩したらしくてな。しばらく、夜は入れないといわれて」
「そういうことですか。いくらでも代わりますよ」