湯呑みの茶を飲み干し、すずに「どうした?」と尋ねてみるも、なかなか返事はない。

「迷惑するようなことがあるなら、俺から皆に注意をするが」
「めっ、迷惑だなんて! むしろ、若旦那が──」

 いいかけて、すずは慌てたように口許を手で覆った。今、俺がといったな?

「俺がどうした?」
「い、いいえ! あの、私……あっ、あの、23時になるのでフロント閉めてきますね!」

 誤魔化すように捲し立て、フロントへと飛び出す後ろ姿を見て、ほんの少しだけ期待がよぎった。
 ソファーに背を預け、会合に向かう前、まるで新妻のように気遣いを見せてくれたことを思い出す。

 しかし、俺の勝手な期待と妄想で、すずの心をさらに傷つけでもしたら取り返しのつかないことになる。

 そうだ。
 また、あいつのように、手遅れになるようなことは避けなければ……