「それは外が寒かったからだろうな」

 いいながらイタズラ心が芽生え、すずの白い指に手を伸ばした。ほらといって握ると、想像以上に柔らかく肌触りのよい指先が、俺の指にびくりと反応した。

 ちらりと見た表情には戸惑いの色がある。拒絶はされていないようだが、好感触という訳でもなさそうだ。

「冷たいだろう」
「……ずいぶん冷えてますね」
「だろう。熱い茶が助かる。……すずが待っていてくれて良かった」

 名残惜しく思いながら手を放し、湯のみを持ち変えて口に運んだ。
 啜った茶の味は、俺好みの少し濃いめの熱い茶だった。

「紀美子さんだって、きっとお茶を淹れてくれますよ」
「どうだろうな。あの人は厳しいからな。飲んでばかりいるなと説教されかねん」
「若旦那をお説教ですか?」

 可笑しそうに訊き返す顔に、やっと安堵感をにじませた笑みが浮かんだ。

「うちのスタッフは手厳しいからな。すずも大変じゃないか?」
「そんなことありませんよ。皆さん、丁寧に仕事を教えてくださいましたし」