本館の戸を潜ると、若女将が出迎えてくれた。

「皆さん、牡丹の間でお待ちですよ」
「もしかして、私が最後ですかね? しまったな」

 苦笑しながら、持ってきた一升瓶を若女将に渡す。

「これで勘弁願いますかね」
「皆さん、賢木屋さんがお酒をお持ちになるのを楽しみにしてましたよ」

 穏やかに笑う若女将に案内され辿り着いた部屋に入ると、いつもの面々が「やっときおった!」といって笑い声をあげた。

「皆さん、集まるのが早すぎますよ」

 すでに膳が用意されている席に座り、つい苦笑いをする。すると、先に座っていた幼馴染みが「拗ねるなよ」といって大笑いした。
 こいつは最近、第一子が生まれたばかりなこともあり、異常なほど機嫌がいい。

「お前も早く嫁をもらえ。そうすりゃ、時間を都合するのも楽になるだろう」
「俺は自分の仕事を押し付ける気はない」
「そうじゃなくて、外出の用意なんかを手伝ってくれるだろう?」