すずが賢木屋で働くようになってから一ヶ月が過ぎようとしていた。紅葉も散り、山には雪が積もり始めている。
湯乃杜温泉街も、しばらくすれば白く染まるだろう。
温泉街の若旦那衆との会合に出向こうとしたある日のことだ。
下駄に指を通していると、フロントの奥から「若旦那、忘れものです!」と声がした。
さて、なにか忘れただろうかと、手提げの中を覗いてみるが資料に抜けはなさそうだ。
再び「若旦那」と呼ばれて顔をあげると、すずがマフラーを持っていた。
「今日は北風が強いですから、首もとが冷えますよ」
いいながら俺の首にマフラーをかける姿を見て一瞬、息がつまった。
「……ありがとう。今夜は、夜番の皆に甘酒でも出してやってくれるか?」
「わかりました。若旦那は、飲み過ぎて帰られないでくださいね」
「はははっ、他のやつらにいってやってくれ。それじゃ、行ってくる」
すずに背を向けると、愛らしい声に「いってらっしゃいませ」と送り出された。
湯乃杜温泉街も、しばらくすれば白く染まるだろう。
温泉街の若旦那衆との会合に出向こうとしたある日のことだ。
下駄に指を通していると、フロントの奥から「若旦那、忘れものです!」と声がした。
さて、なにか忘れただろうかと、手提げの中を覗いてみるが資料に抜けはなさそうだ。
再び「若旦那」と呼ばれて顔をあげると、すずがマフラーを持っていた。
「今日は北風が強いですから、首もとが冷えますよ」
いいながら俺の首にマフラーをかける姿を見て一瞬、息がつまった。
「……ありがとう。今夜は、夜番の皆に甘酒でも出してやってくれるか?」
「わかりました。若旦那は、飲み過ぎて帰られないでくださいね」
「はははっ、他のやつらにいってやってくれ。それじゃ、行ってくる」
すずに背を向けると、愛らしい声に「いってらっしゃいませ」と送り出された。

