「だ、だって、私みたいなぽっと出の小娘が、老舗の若旦那とだなんて」

 ほぼパニックだった。もう自分でもなにをいっているのかわからない。だけど、顔がますます熱くなっていくのだけは、嫌というほどわかった。

「残念だわ。すずさんなら、私は大歓迎よ。きっも、一鷹だって」

 なにかいいかけた女将は、なにを思ったのか「まあまあ」と呟いて微笑んだ。

「すずさんに、玄関のお花をお願いする日も遠くなさそうね」
「お花って、私は生け花を学んだことなんて」
「お客様が楽しめるよう気配りする心があれば、なんとでもなるわよ。私も、先代女将もそうしてきたのですから」

 さらりと告げられた言葉に、どういう意味かと聞き返す間もなく、女将はフロントへ入っていった。

 こんな具合に女将の手伝いをしたり、お部屋の案内やフロントの手伝いなど、周りに噂されてもおかしくないくらい、多岐にわたって旅館の手伝いをするようになった。

 一鷹さんとどうこうなりたいなんて気持ちは微塵もなかった。
 ただ汗をかいて走り回っていると、隼人のことを考えなくすむことがありがたくて、できることを毎日探していた。