そうして、それらを仕切るのが女将、一鷹さんの母でもある志乃さんだ。いつも美しい着物姿で機敏に動く様子を見て、すぐに私の憧れとなった。

「すずさんは、前職がブライダル企業だったのよね?」

 お客様を迎えるフロントに飾る花を活けながら、女将が尋ねてきた。

「はい。パンツスーツでしたから、着物での配膳はまだ慣れません」
「そうよね。でも、そのうち慣れますよ」

 女将は花を活け終えると、私を見て嬉しそうに笑う。

「立ち姿は綺麗だし、お客様への気配りが慣れている新人なんて始めてだって、幹本も驚いてたわ」
「前の仕事が活かせてよかったと思ってます」
「それに、皆、噂しているわよ」

 生け花の片付けをしながら聞き返すと、女将は含み笑いをして、私の側に近づいた。

「一鷹の婚約者で、花嫁修行中なんじゃないかって」

 突然の耳打ちに驚き、危うく抱えていた花の包みを床に落としそうになった。

「は、はっ、花嫁って、女将、誤解です!」

 全力で否定をすると、女将はちょっと目を見開くと首を傾げて「そうなの?」と、少し寂しそうにいった。