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　賢木屋の若旦那、一鷹さんの提案を受け入れた私は、翌日、会社に連絡をした。
　会社としては戻ってきてほしいのが本音だと上司にいわれたが、事情を全て話していたこともあり、退職届が受理される流れになった。

　私としては、すぐにでも賢木屋で働きたかったのだけど、そこは会社の都合があるようで、離職票が受け取れるまでは身の回りを整える買い出しをしつつ温泉街を散策した。
　時折、仕事の合間を見て一鷹さんが車を出してくれることもあった。

　お世話になりっぱなしも申し訳ない。
　ここは働きで恩返ししないと！

　気持ちも新たに、私の新しい生活は始まった。

　老舗旅館といっても、賢木屋は大きなホテルと違いスタッフの数がそれほど多くなかった。
　フロントは番頭さんの幹本さんを中心に三名が早朝から夜十一時まで常駐している。お部屋の案内係となるスタッフが五名、配膳の補助になるアルバイトが三名、それから料理長さんを中心とした厨房スタッフが五名に、清掃のパートさんが五名、そんな感じだった。