悶々と考えながら蓮根のはさみ揚げに箸を伸ばしたときだった。

「それなら、ここで働くのはどうだ?」

 一鷹さんは目を細めて笑った。まるで、ちょっとそこのコンビニにでバイトしたら、みたいな言い方だ。

 きょとんとして横を見ると、一鷹さんはお肉にワサビをのせて口に運んでいた。
 聞き間違いだったのかな。

「ちょうど、スタッフが一人辞めることになってな。旦那の転勤で引っ越すとなれば、引き留めるわけにもいかなくて。接客経験のある人材は、大助かりなんだが」

 箸を置いてお猪口をもった一鷹さんは、私の方を見て「どうかな」と微笑んだ。

「え、でも、住む場所も探さないと……」
「スタッフ用のアパートに空きがある。心配ない。とはいえ、まずは今働いているところと話をつけなければ、二重労務になってしまうか」

 一鷹さんがぶつぶつ言い出すと、座敷の外から声がかかり、栗ご飯とお吸い物、それにマスカットのゼリーが運ばれてきた。