「もし、すずさんが嫌じゃなければ……抱き締めていいか? なにもしない。ただ、泣くにも顔を隠したいときってあるだろう?」

 涙が止まらない。
 今日あったばかりの人なのに、名前しか知らない間柄なのに、そんなに甘えていいのだろうか。
 どこか冷静な私が止めるけど、髪を撫でる指の優しさは孤独がすがり付くに十分な理由となった。

 声を圧し殺して泣く私を包み込む両腕は温かく、着物からほんのり漂うお香の薫りが心に染み込んでいくようだった。

 ひとしきり泣き終えた頃、気付けばテーブルには焼き物と揚げ物が運ばれていた。

「落ち着いたかい?」
「ごめんなさい、その……」
「気にするな。それよりほら食べよう。ははっ、気を利かせて膳の向きを変えていってくれたようだ」

 いわれてみれば、一鷹さんの料理の向きが変えられている。
 泣いている私に気付かれないよう、そっと配置替えをするのは大変だっただろう。
 申し訳ないことをしたなと、気恥ずかしさを感じながら思っていると、一鷹さんが私を呼んだ。