温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~

「誰が見てそう思っただろう」
「そんなつもりは微塵もなかったんですが……」

 まるで優しい日本酒のように、一鷹さんがするりと私の懐に入ってくるような気がした。
 信用したわけじゃない。でも、横浜から遠くはなれたこの温泉地だから、私のことをなにも知らない人だから話せると思ったのかもしれない。

 刺身をつつきながら、とつとつと恋人と親友に裏切られたことや、職場に迷惑をかけるとわかりながら逃げてきたことを打ち明けた。

「……彼も、職場が同じだから……部署が違っても、顔を合わせるかもと思ったら」

 どうにか笑おうとしたけど、できなかった。

「ごめんなさい。こんな話し聞かせてしまって」

 箸を下ろし、バッグから取り出したハンカチで目元を拭っていると、一鷹さんがすくっと立ち上がった。そうして、当然のように私の横へと腰を下ろす。

「辛かったな」

 大きな手が、そっと頭を撫でた。