「すずさん、あの橋の通り名を知っているか?」
「……通り名?」
「結び橋っていうんだ。ほら、温泉街が川を挟んで二つに分かれているだろう? 昔、あっちとこっちで惚れあった男と女がいたんだ」
話を始めた一鷹さんは、私の手元を見ると「食べながら聞いてくれよ」といって、ホウレン草の和え物が入った小鉢を手に取った。
「どちらも旅館の倅と娘でな。お互いの親は跡取りをやれるわけがないと大喧嘩だ」
「まるで、ロミオとジュリエットね」
「そうそれだ。けどな、二人はあの橋の上で『共に生きよう』と誓い合ったんだ。親に邪魔されて命を落とすなんてバカげているってな」
「今の時代の価値観で考えたらそうだけど、そんな伝承になるような時代で許されたんですか?」
「それがな。女の腹には赤子がいてな。次はその赤子をどっちの跡取りにするかで大揉めだ」
苦笑した一鷹さんは、小鉢をひとつ平らげると日本酒を一口啜る。
「結局、親たちが心配してたのは跡取りのことでな。娘が子宝に恵まれたことで、双方、和解したんだ」
「……通り名?」
「結び橋っていうんだ。ほら、温泉街が川を挟んで二つに分かれているだろう? 昔、あっちとこっちで惚れあった男と女がいたんだ」
話を始めた一鷹さんは、私の手元を見ると「食べながら聞いてくれよ」といって、ホウレン草の和え物が入った小鉢を手に取った。
「どちらも旅館の倅と娘でな。お互いの親は跡取りをやれるわけがないと大喧嘩だ」
「まるで、ロミオとジュリエットね」
「そうそれだ。けどな、二人はあの橋の上で『共に生きよう』と誓い合ったんだ。親に邪魔されて命を落とすなんてバカげているってな」
「今の時代の価値観で考えたらそうだけど、そんな伝承になるような時代で許されたんですか?」
「それがな。女の腹には赤子がいてな。次はその赤子をどっちの跡取りにするかで大揉めだ」
苦笑した一鷹さんは、小鉢をひとつ平らげると日本酒を一口啜る。
「結局、親たちが心配してたのは跡取りのことでな。娘が子宝に恵まれたことで、双方、和解したんだ」


