温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~

 華やかな披露宴で振る舞われるディナーとは違う。一つ一つに季節を感じさせ、食べる人を喜ばせようとする心配りが感じられた。
 染み渡る味に、また涙が滲んできた。

「……橋の上でも泣いていただろう。よかったら、訳を聞かせてくれないか?」

 一鷹さんは言い終わると、空になった自分のお猪口に日本酒を注いだ。

「名乗るのが遅くなったが、俺は賢木一鷹。ここの跡取りってやつだ。どうも女の涙には弱くてな……」

 日本酒を一口啜り、秋刀魚の南蛮漬けに箸を入れる。

「客には笑顔で日常に戻ってほしいんだ。賢木屋の風呂に入ってよかった、癒された、また来るよ……そういってもらえる宿であろうと思っている」

 話を聞きながら、私は自分のことのように考えていた。
 披露宴で新郎新婦が祝福され、ご家族と来賓の方が一同、幸せだった、明日からが楽しみだと思えるひとときを提供する。

 いつか私も、ヴェリテホールディングスの運営する会場で披露宴を行いたいと思っていた。

 宿と披露宴では提供するものはことなるけど、不思議と少しだけ近しいものを感じる。