温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~

 そうして運ばれてきたのは、小さな小鉢が三つ並んだお通しと絵巻の美しいお椀だった。それも、二人分。

「先付けにございます。右から、しめじとホウレン草のポン酢和え、秋刀魚の南蛮漬け、湯葉のあんかけになります。椀物は本日、萩しんじょうになります」

 開けられたお椀の中には、まるで手鞠のように形の整った海老のすり身と一緒に舞茸、銀杏の形をした人参が添えられていた。
 小鉢の中も一つ一つが丁寧な料理で、まるで宝箱みたいだ。

「冷めない内に食べよう。まずはこれだ」

 そういいながら一鷹さんが見せてくれたのは、地酒の瓶だった。

 ガラスのお猪口(ちょこ)に、清らかな日本酒がとぷんと注がれる。
 こうなったら、断るのもおかしな話だし、お酒に罪はないのだからと、お猪口を手に取った。

「いただきます」

 お猪口を少し掲げれば、一鷹さんも同じように掲げて「どうぞ」といい、同じようなタイミングでそれに口をつけた。