温泉街を繋ぐ橋の上で涙を流していたら老舗旅館の若旦那に溺愛されました~世を儚むわけあり女と勘違いされた3分間が私の運命を変えた~

 日が暮れると庭木の間に置かれた照明が灯り、秋色に彩られた木々が美しく浮かび上がった。
 なんて幻想的な風景だろう。

 ほんやりと庭を眺め続け、冷たいミネラルウォーターを飲み干し終わった頃だった。
 部屋に備え付けられた電話が鳴り、夕食の準備が整いましたと案内があった。

 時計を見ると、すでに二十時を回っている。
 食事処は十七時半には開くと聞いていたし、もしかしたら、なかなか出向かない私を心配して一鷹さんが連絡するようにいってくれたのかもしれない。

 申し訳なさを感じながら、手早く化粧を整え直し、浴衣を整えて花明りへと向かった。

 和モダンを感じさせる大きな階段を上った先、すぐに食事処を見つけられた。
 花明りと書かれた暖簾を潜り、桂の間だと伝える。すると、スタッフが奥の個室となった和室へと案内してくれた。

 障子がずらされると「やっときたか」と声がした。驚きながら中を見れば、当然のように一鷹さんがいた。

「さあ、上がって」

 今さら引き返すわけにもいかない。いわれたまま座敷に上がり、一鷹さんと向き合うように座るとすぐに「失礼いたします」と声がした。